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5 本件凶行および潜り戸のところまでの逃走の状況
⑴ 〔乙2〕は眠りについてから一時間位した頃に、ふと目が覚めると、白い開襟シヤツらしいものを着た若い男が被害者の右肩から右腹部までの間で、しかも同女の敷布団の縁のあたりにしやがみ、身体全体はやや同女の顔の方を向いている格好で、前屈みになり、同女を覗きみるようにしている姿が目に入つた。そのとき被害者の頭は普段のとおりに枕の上にあつて左肩は枕の下になつており、顔はやや左側を向き、左手の二の腕は掛布団の上で肘関節から曲げて腹の中程におかれ、異常な姿勢ではなかつた(当時被害者はズロースを穿き、腹巻を締め、素肌の上に浴衣地の寝巻を着ていたものである。)。
 〔乙2〕は男の姿が目に入ると同時位に、男の右手が動いているように感じたが、咄嗟に飛び起き、「〔甲〕」と一回叫ぶと同時に男は蚊帳をまくり、引き戸から外へ逃げて行つた。
⑵ 縁側の引き戸のうち東側から二枚目の戸が約一尺二寸位(約三六・三センチメートル)開いていて、〔乙2〕はそのあたりまで行つて、「泥棒、泥棒」と叫んだが、男の姿は三間位(約五・四五メートル)前方の庭の暗闇の中にぼんやりその白い上衣だけが認められた。
⑶ 右⑴⑵の間に〔乙2〕が認めた男の特徴は、「腕が半分ほど出ていたから半袖と思うが、白色の開襟シヤツを着ており、また脛がみえたから半ズボンか長ズボンをまくり上げて穿いていたと思う。ズボンの色は白色か国防色であり、皮バンドをしていた。身長は五尺三寸位(約一・六メートル)、肩は垂れ、やせていたようで、髪は普通に分けていた。眼鏡はかけず、帽子もかぶつていなかつ