木村は何を思ひついたのか、自分でレコードをもつて先に立つた。
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翌日。河上は寢不足の眼をして時間ぎりぎりに出勤した。昨夜あれから木村のアパートで夜も遲くまで、それも隣室から呶嗚られなかつたら、それこそ徹夜もしかねまじい熱心さで、あの、「寢言レコード」をかけ續ける木村の傍に、
が、彼は、間もなくその
(どうしたんですか――)
と問ひかけようとしたが、昨日のメモのことを思ひ出してやめてしまつた。たゞ、今日は幸ひ
長い午前󠄁が過ぎて、サイレンが鳴つたけれど、彼女は一向食事に立つ氣配もなかった。
『お畫、行かないんですか』
『えゝ』
『何か心配ごとですか――』
『なんでもないのよ……』
美知子は、やつと河上の顏を見たが、
『どうぞお先きに――』
さういつたまゝ、向ふを向いてしまつた。まるで取りつく島もない有󠄁樣だつた。しかしそれは彼女も氣がついたと見えて、矢張り向ふを向いた儘だつたが、
『いゝのよ、心配しないでね、一寸頭が痛いだけなの……かへりのお序にミグレニン買つて來て下さらない?』
『そりやいけませんね、すぐ買つて來ますよ――』
河上は、大急󠄁ぎで晝飯をし、ミグレニンを買つて來ると、入口の所でばつたり木村に會つた。