河上も、强張つた顏で頷いた。
『二枚のレコードを合成すると一つの言葉になる――とは考へたね、この道󠄁でも斬新な方法に違󠄁ひない、ところ〴〵不明󠄁瞭な點はあつたが、これが一枚だつたらテンデ見當もつかんからね』
『二枚一緒にあつた、といふのは敵の大失敗だつたな』
『と同時に、こつちにとつては天祐でもあつたよ、……あのマーク「赤い鴉」とはなんの意味かこれから手繰つて行かなきやならん――いよいよ、君、待望の特種だ……』
木村は、はじめてにやりとした――彼がはりきる譯である。
『うゝん、「赤い鴉」……ネ」
と同時に突然河上の兩頰にポ―ッと血が上つた、が、次の瞬間こんどは一時に血の氣が引いて、紙のやうに白けてしまつた。
『おい、どうした』
『……いゝや、なんでも……』
丁度その時、晝休みが終󠄁つたと見えて、急󠄁に廊下が騒がしくなつて來た。
『……新事實があつたら電話してくれたまへ、あ、さうだ、今晩󠄁念のためあのレコードを聽きに來ないか』
木村のかへるのを、ドアーのところまで送󠄁つた河上は、まるでよろめくやうな足取りであつた。
6
河上は、席に戾つても、眼の
いつであつたか暑い日、上衣を脫いでワイシヤツ姿󠄁だつたオワイ町先生の胸ポケツトに、さういへば「赤い鴉」が刺繍してあつたやうである。
喧し屋で、お天氣屋で猶󠄁太系の鷲鼻が目障りなオツレル。これと謎のレコードを結ぶ「赤い鴉」……。
――河上は、息苦しさを覺えて眼を舉げた、と、その視線の中に、向ふ側の美知子が、不審さうな顏を向けてゐるのに氣がついた。
彼女の顏色も相變らずだが、河上のはもつと惡かつたのかも知れない。彼女はミグレニンを、