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老年たりとも尙ほ死を怨むを制する能はざるもの少なからず。

ソー 或は然らん。されども君が今朝此くも早く此こに來りし理由は何ぞや、其事君未だ余に語らざるなり。

クリ 余は悲しむべき痛むべき報道を君に齎らせり。素より君に於いては悲しむべきことにも非ず、又た何事にも非ずとなさん。然りと雖吾等君の友人たる者、特に余に取つては最も悲しむべき痛むべき事たるなり。

ソー 何ぞや。思ふにデーロス島よりの船歸帆せば余は死せざる可からざるなり、君の齎らす所は、其船の歸帆したる報道なるか。

クリ 否な其船未だ歸帆せずと雖、今日中には必ず歸帆すべし。スニオンより來りし人々、其の處にて船を後にして來りしと云へり。さらばソークラテースよ、明日は君の最後の日なるべし。

ソー クリトーンよ、若し之れ神意ならんには、余は喜びて死すべきのみ。されども余の信ずる所に由れば、今一日の猶豫あるべし。

クリ 何故に君はしか思ふにや。