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るを信ずると雖、而も諸神、神‐人及び英傑等の存在を信ぜずと云ふが如き君の論には、何人も服することあらざるべし。

メレートスの以つて余を罪せんとする所に對しては已に十分に論じたり、此他精密なる答辯の要あることなし。然りと雖余は、前に云ひしが如く、甚だ多くの敵を有せり、若し余にして、彼等の余を破滅せしむるに任ぜば、余は彼等の破滅する所となるや必せり。メレートスに非ず、アニュトスに非ず、世間一般の嫉妬と讒搆とは、從來多くの善人を殺したる所のものにして、今後も尙ほ多數を殺すことを爲すべく、余は其最後の者たるの危難は之れ有らざるなり。

或者必ず言はん。ソークラテースよ、汝は此く時ならざる死を遂ぐることを耻ぢざるかと。余は此く答へん、曰く君は大に誤れり、何事にか善良なる人は、决して生死の偶然なるものを計算すべきに非ずして、たゞ自己の爲したる事は、正なるか、邪なるか――善人の爲すべき所を爲したるか、惡人の爲すべき所を爲したるかを考慮すべきあるのみ。若し君の見解に從ふ時はトロヤ戰爭に死したる諸英雄の如きは亳も善きことなしと謂