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雖余が彼等人々を腐敗せしめずとするも、又た意志なくして腐敗せしめたりとするも、何れにするも君は虛欺せることを免れざるなり。若し余の犯罪にして無意志なる時は、法律は無意志の犯罪を認めざるなり。若し余過つ時は君は先づ一箇人として余に警戒し、忠吿する所あるは當然たりしなり、何となれば若し余にして意志なくして爲し居りしことならんには、君の忠吿を受くる時は、直に之れを改め以つて君の忠吿に從ふべければなり。然るに君は余と談話すること及び敎ふることを嫌ひて余を法庭に吿發せり。而して法庭は敎育の塲所に非ずして刑罰の塲所たるなり。

アテーナイ人諸君、余が今ま言ひし如く、メレートスは、此事に關して、大となく、小となく、一切の事全然不注意なるは此くて十分に知るべきなり。然りと雖、メレートスよ、君は余を以つて靑年を腐敗せしむるものなりと斷定するに至りたるの理由は余の知らんと欲する所なり。君の吿發書に由りて推論する時は、余は靑年に敎ふるに國家の認定せる諸神を信ぜずして、之れに代ふるに新神或は靈體を信ぜんことを以てするものなり