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者なりと思はれ、又た彼れ自身は、人々が智者なりと思ふよりも一層自ら智者なりと思へりと雖も、余彼れと談話を始むるに於ては、余は彼れを以つて、實際智者に非ずと考へざるを得ざりしなり。此に於て余は彼れに說明するに、彼れは自ら以つて智者なりと思ふと雖、其實智者に非ざることを以つてせり。而して其結果たるや彼れは余を嫌ふに至り、又た彼れと共にありて吾等の談話を聽き居たる數多の者も亦彼れと共に余を怨むこととなれり。而して此く思ひつゝ彼れの許を辭し去れり――余は吾等兩人共、善美に關して眞に何事も之れを知れりと想像せずと雖、余は彼れよりは優れるの點を有せり。何となれば彼れ何物をも知ることなくして自ら之れを知れりと信じ、余は何物をも知らず、又た知れりとも考へざればなり。故に此點に於て余は聊か彼れよりも優れる所あるが如し。此くて余は又た他の一層高尙なる哲學を有せりと云ふ所の人物を訪問せり、然るに其結論は全く前の如くにして、余は又た彼れ及び彼れと共なる人々を敵として持たざるを得ざるに至れり。

此後余は尙ほ一人より他に順次に有名なる人物を歷訪せり、而し