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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/83

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第三十一章 デカルト(René Descartes

《近世哲學における唯理學派の開祖デカルト、其の生涯、著述、性行。》〔一〕先きにカムパネルラの條にも又ホッブスの條にも已に其の名を揭げたるデカルトを以て近世哲學に於ける大組織を立てたる最初の人となす。上來叙述したる新時代の學問界の精神即ち從來の思想に依傍せずして根柢より新らしく確實に萬事を考へ直さむといふ志望は彼れに於いて最も大なる形を取りたり。而して通常彼れを以て近世哲學上の一大潮流なる究理(又は唯理)學派の開祖とするは彼れが新哲學の方針を樹てゝ吾人の意識の直接に確證する疑ふべからざる所に立脚し、之れを根據として次第に究理の步武を進め以て哲學の大組織を建設せむとしたればなり。

デカルトは一千五百九十六年三月三十一日佛蘭西國トゥレーヌの門閥の家に生まる。生來蒲柳の質、幼少より病がちなりしかど已に夙く其の才能の非凡なるを顯はせり。其の問ふ事柄の常に理窟に傾けるを以て彼れが父は彼れを呼んで哲學者と云へりきとぞ。ラ、フレッシなるイェスイト學校に入り十八歲に至るまで當