コンテンツにスキップ

Page:Onishihakushizenshu04.djvu/65

提供:Wikisource
このページは校正済みです

自然科學の一大主義にしてアリストテレースの用ゐたる目的觀上の說明とは大に其の趣を異にせり。ベーコンは斯く先づ諸種の先入を去り虛心平氣にして新たなる知識の組織を立てむことを要求せり。

《歸納法詳說。》〔五〕次ぎにベーコンは在來の知識を以て滿足せしむること能はざる學問の新理想を揭げ其が如何なる部分の又如何なる種類の硏究によりて組成せらるべきかを說き、次ぎに其の如き理想に循へる學術の硏究法を說けり。ベーコンの所說に於いて特に吾人の注意すべきは此の硏究法なり。彼れ先づ說いて曰はく、吾人の依據すべきは經驗なり、凡そ學術の硏究は多くの事實を經驗するに出立し而して漸次に此等の事實に通ずる法則を發見せまくする歸納法(induction)に依らざるべからずと。是れ彼れがアリストテレース及びスコラ學者等に反對して形式論理を新知識の開發に無用なるものと視而して之れに對して說きたる謂はゆる學術の「新機關」なり。

歸納的硏究を爲さむには先づ事實を蒐集せざるべからず、此等の事實是れ即ち歸納の據るべき事例(instantiae)なり。事例の蒐集は自然界に生起する事柄を平叙す