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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/637

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第四十九章 カント以後の哲學

予輩は西洋哲學史を講じて茲にやうやくカント哲學を終へ、千有餘頁といふ少なからぬ紙數に達しぬ、是れ畢竟ずるに西洋哲學史の範圍宏大、少日月を以て講じ盡くすこと能はざればなり。而して予輩の爲めに餘されたる紙數多からず、又學期の終はりに迫りて詳細に述ぶる餘裕なければカント以後は唯だ其の哲學思想の發展の大略を述ぶるに止めざるを得ず。先づカントの繼承者とも云ふべき者の中最も大なるはフィヒテなり。


フィヒテ(Johann Gottlieb Fichte 一七六二―一八一四)

《フィヒテの哲學、其がカント哲學に對する關係。》〔一〕フィヒテはカント哲學より出立せるものなり。カントは時空てふ直觀の形式を說き、又十二の範疇を說きたれども斯かる直觀の形式及び範疇の根元を示さず唯だ拾ひ集むるが如く其等を揭ぐるに止まりき。又彼れが謂へる知的理性と行的理性との關係の如きは、彼れが所說の中最も吾人を滿足せしめざる點な