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所のもの是れ卽ち「純自然科學」("reine Naturwissenschaft")の基礎となるものにして、カントが「自然界の純理哲學」("Metaphysik der Natur")と名づけたるもの是なり。

純自然科學の基礎を成す所の原理は量、質、關係及び樣狀の四方面より見たる範疇に於いてそれぞれに認めらる。第一、量の原理は凡べて吾人が自然界に於いて經驗するものは皆廣がりに於ける量即ち大さを有すといふことにしてカントは之れを直觀の公理Axiom der Anschauung)と名づけたり、言ふこゝろは吾人の直觀に於ける凡べての物は皆大さを有すといふに在り。第二、質の原理は凡べて吾人の知覺する所のものは强さに於ける或程度を有すといふことにしてカントは之れを名づけて知覺の豫期Antizipation der Wahrnehmung)と云へり。第三、關係の原理を名づけてカントは經驗の類推Analogie der Erfahrung)と云へり。盖し常住、前後、及び共在の三つに對して三個の類推あり、一に曰はく、凡べて現象の變化する中に在りて物の體は常住にして其の全體の量は增減することなし、二に曰はく、凡べての出來事は規則立ちて前後するもの、換言すれば因果律に從ふものなり、三に曰はく、凡べての物體は其が共在する點に於いては皆相關的關係を有するものなり。第四、樣狀