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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/537

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斯くして成るものなり。故に唯だ感覺を感ずといふに止まらずして(嚴に云へば、吾人はもとより唯だ感覺を感ずといふことなし、之れを感ずるや必ず時空の形式に於いてす)事物を知覺すといふ意味にての經驗は時空の形式を用ゐて始めて成り立つものなり。されば斯かる意味にて謂ふ經驗は時空によりて始めて成り立つものにして時空が經驗によりて成り立つものにはあらず。

此くの如く經驗上の事物は時空によりて始めて成り立つものなるがゆゑに何處の如何なる事物と雖も時空の形式の中に在らざるはなく從うて時空に於いて認めらるゝ數學上の關係に從はざるものなし。かくの如く時空は先天的なるものなるがゆゑに數學上の綜合的判定は遍通必然のものたること明らかなり、例へば、吾人が色眼鏡を用ゐて物を見るが如し、如何なる事物も其の色を帶びて見えざることなしといふことを得、何となれば其の色を帶ばしめて見るといふことが吾人が色眼鏡を用ゐる時の見樣なればなり。若し其の色が吾人の見樣に存在せずして吾人の見樣以外なる對境に存在せば其の對境が或場合に其の色を帶びて見えたればとて他の凡べての場合に於いても必然に其の色を帶びて見ゆとはいふこ