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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/535

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《數學上の綜合的判定は遍通必然のものなり。》〔一一〕時空が先天的直觀なればこそ數學に於いて綜合的判定が先天的に立てらるゝなれ。先づ其の判定の綜合的なることは時間及び空間が槪念ならずして直觀なることによりて解し得らる、何となれば直觀なるゆゑに吾人は幾何學に於いては空間に於いて形を作ることを得、數學に於いては時間に於いて數の連續を形づくることを得ればなり。時空にして若し槪念ならば其の槪念の中に已に含み居るもの以外に一步も出づること能はざるべし、換言すれば、分析的なる外に進み行く道無かるべし。然るに時空の直觀に於いては啻だ一部分の空間を描くのみならず其の空間に聯接して更に他の空間を描き又一の時間に連接して他の時間を描き而して其の相互の關係を綜合的に直觀することを得るなり、是れ數學に於いて綜合的判定の形づくられ得る所以なり。

次ぎに綜合的判定の遍通必然なることは時空の直觀が先天的なることによりて了解せらる。時空は經驗を待ちて始めて効力あるものに非ず、吾人の心性に離れざる働きやうなるがゆゑに其の心性の行くところ其の働き樣の伴はざることなく從うて時間及び空間に於ける關係を成すものとして事物を直觀せざることなし。