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を占めたるはテーテンス(Tetens 一七三六―一八〇五)なり。彼れがカントに影響を與へたること決して少小にあらず。メンデルスゾーン及びスルツェルはライブニッツ‐ヺルフ學派の心理說より出立して吾人の感情的心作用に注意し特に之れを吾人が心的生活の一方面として說かむとすることに向かひたりしが、最も明らかに之れを他の心作用と區別して之れに感情(Fühlungen 又は Gefühle)と云ふ名を附し吾人の心作用の分類法として從來多くの學者の取り來たれる知力と意志との二分法に換ふるに知、情、意の三分法を以てしたるはテーテンスなり。此の三分法は後にカントが更に之れを用ゐ傅へてよりは殆んど心理學上の通說たるかの如き觀をなすに至れり。尙ほテーテンスは吾人の知識の成り立ちを說明して知識は自動的知力(Verstand)の與ふる形式と感覺によりて與へらるゝ內容と此の二者の結合によりて成ると言へり。此等の點及び其の他の彼れが知識論上の所說はカントより影響を受けたるが如く見ゆ。

其の他心理學者として茲に其の名を揭ぐべきものにはテーテンスの論敵にしてボネーの說に傾きたるロッシウス(Lossius)、又ロックとライブニッツとの中間に其