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Page:Onishihakushizenshu04.djvu/479

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いて希臘の哲學思想が專ら智識及び道德の論に向かひたりしは歐洲に於ける啓蒙時代の思潮と頗る相似たる所あり。上に云へるが如く當時の啓蒙的思潮の一要素を成したる自然科學の發達及び其の普及の結果として一切の事物に自然科學的硏究の見方を應用するに至り遂に唯物論を喚起し又社會制度の論に於いても其の影響を及ぼせる所ありき。

《啓蒙的思潮の特徵、差別智を主とすること及び個人的思想。》〔二〕啓蒙的思潮の特徵といふべきは各人が其の知を明らかにし其の知解力を用ゐて凡べての事物に明瞭なる判斷を下し行くこと即ち差別智を主とする說、及び社會を以て個々なる獨立の人の相集合したるものと見ること則ち個人的思想是れなり。此の點に於いてライブニッツの哲學はデカルトに出でてスピノーザの萬有神說に至れる純理哲學流の組織とロックに始まれる啓蒙的哲學との間に立てるが如き趣あり。彼れの哲學は多元論即ち多くの個々獨立のものを以て實在とする論にして又吾人精神の根本的作用を以て理解力(智力)なりとする說なり(而して此の說が後にヺルフ學派の唯理說に至りし次第は曾て述べしが如し)。ライブニッツの哲學は此の兩點に於いて啓蒙的思潮の精神を含めるものと云ひ