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《啓蒙的潮勢に對する反抗、其の代表者ルソー。》〔六〕かくの如く啓蒙的潮勢が滔々として一世を風靡し行きたる時に當たり之れに向かひて反抗を起こしたる者あり、是れ即ち當代の傑物ルソーなり。彼れは當時に行はれたる知力的及び機械的分解に反對して直接なる感情の指示によるべきことを唱へたる者にして其の立場の啓蒙的風潮に對するは恰もスコットランドの常識學派がヒュームに對して起これるが如きものあり。されど彼れの唱導したる思想は(必ずしも彼れの創始したる新思想といふにはあらざれども)常識學派の所說に優りて深大なる影響を後世に遺すこととなれり、是れ其の思想が彼れの天才によりて特殊の發表を得たるがゆゑにして後の哲學上、文學上及び社會上の種々の新傾向新運動の種子が彼れにより蒔き植ゑられて世界大の結果を生ずるに至りたるなり。

《啓蒙思潮の弘布。》〔七〕ヺルテールは椽大の筆を揮るひて啓蒙的運動を起こすことに力めたりしが彼れ自ら其の眼中に置きし所は專ら有識の人々(honnêtes gens)にして其等と區別して愚民(canaille)にまでも新思想の布及を圖らむと志しゝにはあらず、彼れが眼界には猶ほ其の如き社會的階級の別を遺したりき。彼れに踵いで更に當時の學術