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はなし。火の水となり地となるをヘーラクライトスは下り道と名づけ、地の水となり火となるを上り道と名づけたり。これは彼れが大地より出で來たれる水集まりて海をなし海水蒸發して太陽の火となり再び水となりて地に降るを見て云へるなり。火は水、水は地とならざるを得ず地は水、水は火とならざるを得ず、變化の中に此の變化の規律のみは變ぜざる也。而して斯くあらしむる原力原物は火なり。
斯くの如く火より下り地より上る反對の二傾向あればこそ萬物は保たるゝなれ。上り道を絕ちて下り道をのみ存すべからず下り道を絕ちて上り道をのみ存すべからず、此れは彼れに彼れは此れに缺くべからず。故に反對なくば物なし。ヘーラクライトス曰はく「もし不正といふ名なくば吾人は正といふ名を知らざるべし」と、又曰はく「善と惡とは同一なり」と、又曰はく「眠れる者も共に働ける者なり」と。又彼れは變化の中に休息を見るともいへり。かく反對の相離れずして却つて相保たるゝ所以これ彼れが自家獨創の見とする所なり。
《火氣多きほど活潑聰明なり。》〔六〕萬物活動の本原は火なれば吾人は火氣多きほど活潑なり聰明なり、火氣