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Page:Onishihakushizenshu03.djvu/89

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《火は萬物變化の根本動力なり。》〔五〕此の如く凡べての物一にして其の一なるものが反對の流行を爲す。「一は凡べての物を以て成り又凡べての物一より出づ」。一とは何ぞ。ヘーラクライトスは之れをと見たり。物の生滅變化する樣は火に於いて最も明らかに見るを得。火來たれば何物も之れに化し之れに化すれば又忽ち煙と變じ去る。「凡べての物は火に替へられ火は凡べての物に替へらる、恰も器物を金貨に替へ金貨を器物に替ふるが如し」。萬物の一なるところ火に外ならず。火は萬物變化の根本動力也。之れを要するにヘーラクライトスは火によりて以て萬物の變化することと其の一なることとの關係を說かむとしたる也。彼れ曰はく「世界は神々の造りしものにもあらず、人の造りしものにもあらず、常にありしもの又常にあらむとするもの、即ち永久に活ける火にして一定の量に從うて絕えず燃えては又消ゆるものなり」と。

彼れは更に火の萬物生滅の原動力たる所以を詳說して曰はく、火其の熱を失へば水となり更に其の熟を失へば地となる。而して地となればた熱氣を增して水となり更に熱氣を增して火となる。一物として此の火水地の狀態を上下せざる