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Page:Onishihakushizenshu03.djvu/91

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乏しきほど頑冥不靈なり。その言に曰はく「乾燥なる靈魂は最も賢く最も勝れたるもの也」と。靈魂は火氣にして而して絕えず其の活力を保たむには常に感官及び呼吸によりて宇宙の火氣をうけざるべからず。其の通路を塞がば吾人は忽ち枯死すべし。吾人が睡眠せる間は呼吸の一路の外宇宙の神火を受くるの道全く杜絕せるが故に自己の小世界にのみ閉ぢ籠もり唯だ妄想(夢)を逞しくするのみ。ヘーラクライトスは宇宙の火を神火と名づけ之れを以て世界の出來事を指揮する者の如くに見たり。彼れは偶像を拜し又祭壇に血を流して犧牲を供する等の事を嘲りたり。其の宗敎思想が通俗のものに異なれりしは明らかなり。

《ヘーラクライトスとアナクシマンドロス。》〔七〕アナクシマンドスは物その反對に分かれ互に其の位地を侵すが故にその中正を失ひ隨うて遂にト、アパイロンに歸らざるべからずといへりしが、ヘーラクライトスの說ける所は之れに反して物は反對あるが故に却りて其の中正を保つを得、反對なくば物なしと云ふにあり。要するに諸物の流轉し反對すると其の存在の釣合を保つとは決して相背叛するものにあらず却つて相離る可からざるものなりといふがヘーラクライトスの根本思想なり。彼れの說に從へば萬物