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其のまゝに墨守して疑ふことなかりし時代は今や漸く過ぎ去らむとせり。個々人が多少自ら顧み自ら考へて其の行爲を親定するの必要を成し來たり而してかかる精神的變動の徵證として文學上には抒情詩の勃起し來たれりしを見る。又一種の詩人等が道德的格言を作りて之れを人口に膾炙せしめしも是れ全く當時の人心の需用に應ぜむとしたりし者にして此の時これ所謂七賢人の時代なり。かのソローンの如きは最もよく此の情勢を代表し且つ指導したる者の一人なりき。此の時代の智識上の變動を代表し窮理心の獨立を發表したるものは前に述べたるミレートス學派なるが、宗敎及び道德の上にはピタゴラスの如きありてその運動の代表者となり專ら風敎の振作を以て自任しき。當時かゝる宗敎家として出で來たれりしは獨りピタゴラス一人に止まらずエピメニデース又オノマクリトスなども同樣の性質を帶びたりしなり。さはれ當時最も重要なる位地を占め且つ希臘の思想界に微少ならざる痕跡を留めたる者は實にピタゴラス及び其の盟社なりとす。さて謂ふところ風敎の振作とは一種の講社又は敎會の如きものを組織し一定の禮拜儀式を用ゐて宗敎的信念を興起することなりき。總じて