コンテンツにスキップ

Page:Onishihakushizenshu03.djvu/68

提供:Wikisource
このページは校正済みです

〈リ、フィゼオース〉と名づく。

《萬物の本原は空氣なり。》〔十三〕無際限なるト、アパイロンより如何にして千種萬態なる個々物の生出するかはアナクシマンドロスの學說に於ける難解の點なり。アナクシメネースが一見恰もタレースの地位に立戾りて空氣を以て萬物の物素と見たるは全くゆゑなきにあらず、ミレートス學派の立脚地にある間はト、アパイロンよりも一層吾人の實驗する所に近き物體を以て諸物の起原を考へむとするは一理なきことにあらず。盖しト、アパイロンは吾人の直接に知覺する範圍內のものにあらず、此の點これまさしく哲學思想の一步を進めたるものなりと云ふを得れど、ミレートス學派の立脚地にありては其の如く吾人の實驗し得ざるものより萬物の生ずる樣を想像せむは頗る難かるべし。アナクシメネースは水よりも更に固定の形體なきもの而もト、アパイロンよりは固定の限界ある空氣を擇び、而して之れを以て無際限のものと見做したり。これ明らかにアナクシマンドロスの影響をうけたる也。アナクシメネースが空氣といへるは霧、霞などをも含めての謂ひなりと思はる、即ち煙霞等も皆大氣中のものとして之れと現今所謂空氣又は大氣とを明らかに區