コンテンツにスキップ

Page:Onishihakushizenshu03.djvu/66

提供:Wikisource
このページは校正済みです

曰はく、「諸物は定められたる所に從うて其のもと出で來たりし所にかへるべし、かくして定まれる時に於いて物皆其の不正の業に對して賠償を爲し罸を受くべし」と。今試みにその意を推し測るに、個々なる諸物の存在は皆各自の位置性質を他物に對して維持保存するにあれば、勢ひ成るべく他物を壓倒し成るべく自己を保持するに傾くべし、さるは已に中正を失うたるものなればそが償として罰として遂には再び素のト、アパイロンに歸入せざるべからずといふにあるならむ。アナクシマンドロスが右の如き出沒成壞の循環說を唱へたりしは唯だ一個の世界に就いて云へるにて吾人の俯仰する天地の外に數多の世界ありとは說かざりしならむとツェラーはいへど、最近の硏究の結果によればアナクシマンドロスは同時に數多の世界ありて各自或はト、アパイロンより出で或はこれに還りつゝありと說きたりしが如し。即ち一切の世界の全體が必ずしも皆一時に或は成り或は壞ると云ふことを說きしにはあらざらむ。

《アナクシマンドロスの哲學說の總括。》〔十一〕以上陳述せるところを總括していへば(一)アナクシマンドロスはタレースの考へたる如く個物の一なる水を以て萬物の物素と見ず無際限なるト、アパ