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Page:Onishihakushizenshu03.djvu/63

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了はるべしと、斯く思ひ到らむこと敢て難きにあらざるべし。アナクシマンドロスが萬物の大原を際限なきもの即ちト、アパイロンならざるべからずと考へしは能く一切の物を生じて盡きざらむには其の原物は必ず無盡藏なるべく無盡藏にして能く萬物とならむには萬物中の(例へば水といふ如き)一種物にてあるべからず、未だ何れの物と限られずして能く何れの物ともなり得るものならざる可からずと思ひしに據れるや盖し疑ひなからむ。即ちアナクシマンドロスはト、アパイロンを以て時として存せざるなく處として在らざるなき無限、無邊のものとなし、此のもの普く萬物を包被し萬物これより生出すと考へたりしなり。

《ト、アパイロンとは何ぞ。》〔七〕上述せる程のことは確實と見て可ならむが、更に精しくト、アパイロンの性質を說かむとすれば哲學史家の間に異論を生ず。(イ)或はこれを解して諸物の相混じて雜在せる有樣なりといひ、(ロ)或は性質上單純無差別のものなりといふ《(イ)リンテル(ロ)ヘルバルト等》。前說に從へば諸物はみな個々各自の性を有しながらト、アパイロンの中に混在せるなり、後說に從へばト、アパイロンより出でて後はじめて個々各自の性質を具ふるに至りそれまでは性質上無差別のものとして存する也。思ふにアナクシマ