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しか今日よりこれを知らむよしなし。恐らくは彼れみづからも此等の點については明白なる意見を有せざりしならむ。
《タレースの說とその考證。》〔四〕アリストテレースがタレースの所說として明らかに記し置けるは(一)諸物の本原水にあり(二)世界は水上に浮かぶ(三)萬物は神々を以て充たさる(四)磁石の鐡を引くは靈魂(即ち生氣)あるによるといふの四點に過ぎず。(後に至るまで希臘の學者は久しく生氣即ち身體のいのちと靈魂とを同一視したり。)さて此の四點の中萬物は神々を以て充たさるといひ又磁石の鐵を引くは生氣あるによるといへるより或學者はタレースは諸物に生氣ありと思ひ又萬物の本原たる水には根本的活力とも謂ふべきものありてこの活力(生氣又は靈魂)によりて能く萬物が生出せらると考へしならむといふ。或は然らむ。若し果たして然らばタレースは物活說(物體と生氣とを相離さず物に具はれる活力によりて物界の諸現象を生ずといふ說)を唱へたる者と見らるべし。さはれ吾人はこれをタレースみづからの言又は其の他の憑據によりて確證する能はざる也。それは兎まれ角まれ彼れが水を以て諸物の根原となしゝは疑ふべからざることにしてこの一事以て彼れが希臘哲學史上の位置を定むるに足るべし。