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全うす。萬物は段階を成して下段の目的は上段に進むにあり而して一切の極致は神なり。斯くの如く上下の二界を別かち之れを調和する趣向は是れトマスがアリストテレースの開發主義の哲學に得たるものなるべし。彼れが思想はアリストテレースの哲學を應用して之れをスコラ學の目的に適はしめむとしたる最も巧妙なる又最も光彩あるものなりと云ふを得べし。是れ卽ちアリストテレースに於いて大組織を成せる自然界に關する目的說をば基督敎會の(敎父時代に成りたる)人類の歷史に關する目的說に結合せしめて自然界の目的を以て人間界の目的に附隨せるものとし而して自然界及び人間界の經過に於いて神の目的の成就せらると見たるものなり。此の歷史的世界觀是れ基督敎神學の一大特色也。

《スコラ哲學の最も莊嚴なる詩的發表とダンテ。》〔一二〕トマスに於いて其の頂上に達したるスコラ哲學の全盛期は是れ羅馬法王制度の全盛時代(グレゴリー第七世一〇七三―一〇八五、インノセンス第三世一一九八―一二一六)の反映なりといふを得べし。而して斯くの如く全盛時代に達したるスコラ哲學に最も莊嚴なる詩的發表を與へたる者これをダンテ、アリギェーリ(Dante Alighieri 一二六五―一三二一)とす。ダンテは物理上の知識を