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はこれ即ち哲學史上の固定的要素を成すものなるが、さて又こゝに時勢の影響が同じく學說の上に大體の一致を來たすに與りて力あることを記せざるべからず。盖し同時代に生まれ同時代の空氣を呼吸し同時代の埒內に制限せられたる趣はおのづから其の時代の學說に現はれざるを得ず。かく先人の影響は學說を固定ならしめ時勢の影響はこれを一致せしむるの傾ある者なるが、此等はただかくして哲學史上停止合同の要素を爲すのみならず又多少變動の起因をも含み居れり。社會は恒に一定の狀態に止まるものにあらず動きゆくものなれば其の個人に影響するところ亦決して永く同一なる能はず、又堅固なる所傅を有する學說もその內部に多少自家撞着の點を藏するが常なれば是れ亦久しくそのまゝの形狀を持續し難し、故に哲學史上停止合同の要素となる學派並びに時勢そのものにも亦變遷の種子を含み居れり。然れども變遷の主動力はこれらにあらず個人の創見にあり、哲學史上の變遷を見むには時勢幷びに學派の影響と共に個人的原素あるこどを認めざるべからず個人の獨創する所あるを許さざるべからず、約言すれば同じ時代又同じ先人の影響をうけながら尙ほ其の思想を異にする個人的差別ある