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から凡べての哲學皆この點に於いてその趣を同じくすといふにはあらず、社會の狀態に影響さるゝことの甚だしく大なるものあれば又大ならざるものもあり。こは專ら當時の社會と哲學者個人との關係より生ずるの差異なれば劃一には論じ難けれど如何なる哲學者も多少は當時代の影響を受け之れと關係を有せざるはなし。故におしなべて如何なる哲學者も亦時代の子なりといふを得べし。

《哲學史講究の三方面。》〔五〕上述せしところによりて已に哲學の變遷に與りて力ある要素二あるを認むべし。一は社會の文化,一は個人これ也。こゝに個人といふは哲學上の學説を立てたる先輩とこれに影響さるゝ後進者とを指す。一學者が自ら一學說を創唱すといふものから悉皆獨創の見を立つるといふ如きことは殆んど無く、少なくともその中の或部分は先人の硏究の結果を繼紹せるもの也。しかも先人の影響をうくるにもその度に差あるは論なし。若し一學說出でて一定の形をなし而して後の學者これをそのまゝに繼紹して所謂學統を持績する傾あるときはおのづから先人の影響を受くること大なるべし。

此の如く個人の哲學思想が先人の學說に影響せられてその學風を後に持續する