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ラトーンの語を用ゐて之れを「世界の靈」と名づけたり。而して此の世界の靈の低き方面即ち形體に結ばれる方を自然(φύσις)と名づく。宇宙を通貫する精神を根原となせる個々の精神にも亦高き方と低き方とあり人間に於いて高き方は形體に結ばれざる靈(アリストテレースの所謂原動的ヌウス)なり。件の靈は永遠不朽にして已に吾人の生前に存し死後にもなほ存在す。人間に於ける低き精神は身體に結ばりて之れを活動せしむる生氣なり。此の精神界に至るまでは尙ほ形而上のものなり。更に下れば物界あり、即ち萬物の最も低き段階なり。プローティノスは物質をもて消極的のものとし有に對する非有(μὴ ὔν)と見而して何處迄も一元說を維持せむとせり。以爲らへく、物質が萬物の太原より出でて其の反對の極となるは猶ほ光が太陽より發出して其の薄らぎ行く極み遂に暗黑に終はるが如しと。かくしてプローティノスはプラトーンに存在したる感官界と感官以上の世界との存在する所以を一元的に說かむとせり。

《一切善惡の根原。》〔七〕凡べて世界に於ける不完全なること惡しきことは皆物質より來たる。物質は一切の無常なることの根源なり。物質は定まりたる象を具へざる存在の可