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Page:Onishihakushizenshu03.djvu/397

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能性に外ならず。

凡べて世に於ける善なることは皆理想界より來たる。世界の萬象をして形を取らしむる所以のものは精神の働きなり。世界の靈及び之れより出でたる多くの星辰の中に住める神、「自然」及び多くの鬼神等の働きが有形のものに現はるゝなり。かく根原に於いて一精神の然らしむる所なるが故に萬物は皆相感應す。天地萬物は一生氣を以て活けるものなり。プローティノスが自然界の論は物理的ならず。其の主要なる見地は萬物の本體と意義とを以て精神界に存するものとするに在り。彼れは天地萬物が形體をあらはすも要するに精神の現じたるもの理想の然らしむる所なりと見たりき。

《プローティノスの美論。》〔八〕プローティノスは物質を以て衆惡の根原となして五官の世界を卑しめり然れども希臘人なる彼れの眼は未だ物界を以て全く惡しきものと見るに至らず物質は非有にして理想の發現を妨ぐれどもなほ理想の物質界に現はるゝによりて天地萬象は美麗なり。美を以て理想の感官界に現はれたるものと見たるプローティノスの美學思想は彼れが哲學に於いて一種の光彩を放てる點なり、また之れ