Page:Onishihakushizenshu03.djvu/302

提供:Wikisource
このページは校正済みです

目的にして其の目的の實現し來たる所凡べての事物の變動する所以なりと。盖し此のアリストテレースの目的說は一方に於いてはヘーラクライトスとエレア學派との思想を取り入れまた一方に於いてはソークラテースとプロータゴラスとの思想を取り入れたり。而して其の攝取の方法は頗るプラトーンと異なるものあり。プラトーンはエレア派の謂ふ不變動の實體界とヘーラクライトスの謂ふ流轉變化の界とを二つに分かちて一つを實有界、他を非有界と視たり。アリストテレースは實體と變動とを相離さずして事物の實象が漸次に實現せられ來たる所に變動ありと見たり。換言すれば實體其の物が開發するにて自ら開發することを離れて實體は存せずと見たり。即ち彼れの哲學は進化哲學なり。またプラトーンはソークラテースの謂ふ知識の界とプロータゴラスの謂ふ感官の界とを二つに截斷したりしが、アリストテレースは之れを截らずして吾人の五官に接する個々物を離れて眞知の對境となる事物の實象なしと見たり、換言すれば五官の感覺そのものは知識にあらざると共に五官に現はるゝ個々事物の象その儘も亦實體にあらず、唯だ五官に現はるゝ個性と相離れずして存在する通性を見るこ