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を難ずる趣意に曰はく、若し事物の種類ある每に別に自存するイデアあらば(即ち通性は個々物を離れて存在するものならば)人間の製作物にも又事物の性質にも又其の關係にもイデアなかるべからず。又同一物を見る方面の異なるに從ひて之れを種々なる種類に屬するものと見得べければ同一物を種々のイデアに屬するものと見ざるべからず。又事物の相類する所必ずイデアありとせば現象界の個々物と其のイデアとは相類するが故に其の兩者の上に更に第三者なるイデアなかるべからず、又それと個々物及び其のイデアとの上にイデアなかるべからず、斯くして竟に際限あるべからず。且つ又イデアはそれ自身に其の性體を保持するに止まりて、それが何故に感官界に於ける生滅變化の現象の起因となるかは解すべからず。またプラトーンは個々物がイデアに與る(即ちイデアを分有する)所あるより其の存在を保つと說けど其の分有すといふ意義明らかならずまた何故にイデアに與り得るか何故に之れを分有し得るかは解すべからず。イデアは畢竟感官界の個々物の上に更にそれに類するものを添へてそを二重にしたるもの(αισθητα ἀΐδια)に外ならず、譬へば感官界に於いて觀たるものを天上に引きあげてこ