Page:Onishihakushizenshu03.djvu/294

提供:Wikisource
このページは校正済みです

が硏究の根據となるべき原理の何たるかにつきてはアリストテレースは明らかに指定せる所あらず。唯だ彼れは論理上全體の思想の原理となりて更に證明すべからざる又證明を要せざるものとして矛盾律を揭げたり。又彼れは此の矛盾律を論理上思想の形式に關するものとする外に純理哲學上の原理として揭げたり。

アリストテレースは尙ほ吾人が事物を言ひ表はす仕方を區別して之れを若干の最高槪念の中に收めたり、是れ其の所謂十種のカテゴリー(κατηγορίαι)にして吾人が一切の立言は皆此のカテゴリー即ち範疇に表出されたる事物の方面中の或者を言ひ表はせるなり。其の十種の範疇に曰はく、(一)實體(οὐσία 人又は馬といふが如し)、(二)分量(πόσον, how much 長さ二尺又は三尺といふが如し)、(三)性質(ποῖον 白きといふが如し)、(四)關係(πρός τι 一倍又は半ば又は更に大なりと云ふが如し)、(五)何處(ποῦ 市塲に又はリカイオンにと云ふが如し)、(六)何時(πότε 昨日又は去年といふが如し)、(七)態度(κεῖσθαι 臥する又は坐すといふが如し)、(八)附屬(ἔχειν 靴をはく又は鎧を著るといふが如し)、(九)能動(ποιείν, what it does 斷つ又は焚くといふが如し)、(十)所動(πάσχειν, what is done or happens to a thing 斷たるゝ又は焚かるゝと云ふが如し)。カテゴリー論及びトピカの二書にのみ右十種の悉くを記載しありて凡べて其の後の著作にはアリストテレースは態