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を兼備せる點に於いては實に古今其の儔に乏し。

《其の著述。》〔三〕アリストテレースの著述は頗る浩澣なり。但し古へより傳はれる彼が著作の目錄の中には其が眞著ならぬも固より多からむ。彼れが著作の中に類集とも稱すべきもの(即ち自然科學、歷史、古事、文學等各〻類に從ひてそれぞれに材料を集めたるもの)ありきと見ゆるが此等は必ずしも皆其の親しくものしたるにはあらで寧ろ多くは同志共同の結果と見るべきものならむ、此の種の著述は今は殆んど皆傳はらず。此の類集を除かばアリストテレースの著作は二種に分かつことを得べし。第一種は一般讀者の爲めに公にせしものにて多くは對話の體裁を用ゐ、またプラトーンの敎義に結びたるもの多かりしが如し。此等多くは彼れが尙ほプラトーンが門下に在りし時の作と見て可ならむ。彼れが文章の雄麗なることに於いてシセロ等が之れをデーモクリトス及びプラトーン等に比したるも主として此等通俗を旨とせる著作に就きてのことなるべし。此の種の著作今は完全に傅はれるものなし。第二種は特に學校に於いて門弟を敎ふる爲めにものせるものにて今日迄保存せられたるはおほむね此の種に屬す。故に今吾人の有す