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るものはアリストテレースが浩澣なる著述の一部分に過ぎざれども、彼れが哲學を窺ふに於いて肝要なるものは槪ね保存せられたりと考へらる。惟ふに此等はもと彼れが其の學生に對する講述の手控を基礎としそを修飾して敎科用の書となさむとしたりしものならむ而して未だ其の全部の完成を吿ぐるに及ばずして彼れの逝けりしが故に其の缺損せる個處をば門下生等が其の筆記によりて補ひし處もありと思はる。此の種の著述は論述の體裁略〻一定し用語をも明確にせむと力めたりと見えて、よく科學的著書の面目を備へたり。先づ初めに論究すべき問題を明らかにし、次ぎに其の問題の解釋として揭げられたる在來の說を批評し、更に局部々々につきて精細なる硏究に涉り廣く事實を見渡して終はりに全體をおほふ原理に達せむと力むる、是れアリストテレースが著書の大體の結構なり。此等の著作はプラトーンの對話篇とは大に其の面目を異にして寧ろ近世に於ける學術的講述の體裁を成し其の論ずる科目に從ひて明らかに區劃せられたり。

《其の著述の今日に傳はれるもの。》〔四〕アリストテレースが著書の今日に傳はれるものを擧ぐれば、カテゴリーの論(κατηγορίαι これは少なくも其の一部分はアリストテレースの自ら作れる所