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任ずべからず須らく國家をして配偶を選定せしむべし。子生まるれば夙くより父母の家を去らしめ國家の學校に入れて敎ふべし。かくて業を了へ哲理に通じたるものは實地の經驗を經たる後齡五十に及びて始めて治者の階級に入るを得べし。而して治權を有する者は一定の年限を以て交替すべしと。プラトーンが理想的國家は大にスパルタの政體に倣へる所あり。彼れは國家に有用なる才を得むがために國民の母たる婦女子の敎育をも重んじたりき。かくの如く個人が國家といふ圑體に合體して其の全體の道德的生活を實現するは是れプラトーンの所謂國家主義にして是れ即ち其の有名なる對話篇『ポリタイア』に於いて描きたりし理想的國家の論なり。

當時希臘の社會は已に頽敗の否運に向かひて民心の結合古への如くならず個人的、自主的傾向おひに見えそめたり。此の狀勢の中にありてプラトーンの國家論は個人が全體の爲めに合體し盡瘁する所の理想的國家を時人の眼前に揭げむとしたるものなり。彼れは決して實行すべからずと見たる空想を描きたりしにはあらず。彼れみづからは徹頭徹尾眞面目にて此の理想的國家を說きしなり。