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ありて純粹の理智を以て眼のあたりイデアを觀じ居たるなりと說けるは件の知識論より出でたるなり。また彼れが死後に於ける靈魂の存在を說けるもイデアを慕ひ求むる吾人の心性を根據とせり。おもへらく、吾人は現世に在りて全くイデアを觀じて滿足するに至るを必すべからず、故に吾人の心性を全からしめむには未來の存在なかるべからずと。盖し死後に至るまで理想を慕ひ求むることの休まざる心性の要求是れプラトーンが靈魂死後の存在を說ける根據なり。而して生以前及び死以後に於ける靈魂存在の說は又素とより彼れが道德論上の動機に基づける所あり。盖し彼れは輪廻轉生と善惡應報とを相結びて以爲へらく、靈魂前世に於いて過ちあれば現世に墮落して肉身に宿る、吾人若し現世に於いて理想を追慕し善行を積まば死後には更に高等なる存在に入るを得べし、若し惡業を積み陋劣なる生活を爲さば未來に於いて更に甚だしく墮落すべしと。プラトーンは現世に於いて罪惡を犯しゝ者は來世に於いて禽獸界に墮落すべしと說きて仔細に罪惡の種類と墮落すべき境界の種類とを列擧したるが、これは固より譬喩を混じたる說ならむ。