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Page:Onishihakushizenshu03.djvu/245

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之れを吾人の感官に現はれたる世界と見たり。語を換ふればプロータゴラスが知識論に謂ふ所を以て此の變化流轉の世界の事なりと見たるなり。彼れはまた更に之れに對してエレア派の思想を取り入れてその所謂常住不變なるものを眞實體と見、而して之れを看取するもの是れ即ちソークラテースの所謂槪念的知識なりとせり。之れを要するにプラトーンのイデア論はプロータゴラスの謂ふ感官の知覺とヘーラクライトスの謂ふ變化の世界とを結び、ソークラテースの謂ふ知識とエレア學派の謂ふ實有とを結びたるものなり。後なる結合は前にメガラ學派の試みたる所なれど、そはプラトーンに於いて始めて有効なる結果を來たせり。看るべし在來の希臘哲學の諸種の大思想が如何に彼れによりて採擇融化せられたるかを。かくして成れる新組織が是れ即ちプラトーンのイデア論、彼れが哲學の基礎なり。吾人はプラトーンに於いて常住不變なる實體界(οὐσία)と變化流轉の生滅界(γένεσις)との對峙が始めて明らかに思ひ浮かべられたるを見る也。

《イデア論。》〔十〕此の常住不變の實體界これ實有にして生滅の世界是れ非實有なり。而して實有の界はイデアの界なり。右開陳せる所に從うてイデアの何なるかを約