コンテンツにスキップ

Page:Onishihakushizenshu03.djvu/195

提供:Wikisource
このページは校正済みです

し人心蕩然として腐敗せむとせり。而してソフィスト等はまた一層この腐敗を助けたりしならむ。遮莫、彼等を以て希臘の社會に單に弊害をのみ流したるものとするは非なり、彼等は希臘思想發達の自然の通路ともいふべき變動期を代表せるもの也。彼等によりて從來客觀(物界)の硏究に專らなりし學問の風潮が靡然として主觀なる人事の硏究に轉じたり。彼等出でて知識論、道德論等の新硏究起こるに至り而して此の新硏究やこれ即ち希臘學界の面目を一變する所以のものたりし也。言語、脩辭、論理及び倫理等の學科の硏究の萌芽せしは彼等の力に負へる所甚だ多し。彼等は自然に來たるべき希臘人心の變動を代表して思想上に於ける其の社會の大掃除をなしたるものと謂うて可ならむ。

此の時に方たりて一面ソフィストの立脚地に在て而も其の破壞的傾向を防止し社會の道徳を更に確實なる根據に立てむと志したる人あり。之れをソークラテースとす。


第十二章 ソークラテース(Σωκράτης