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して此の物界硏究時代の學統の中心となれるものは實にエレア學說なり。又此のエレア學說が如何に後の希臘哲學に重きをなせるかは更に述ぶる所あるべし。

上來叙述したる物理的思索の頂上と見るべき元子論はデーモクリトスによりて大成せられて一大組織となりあがれり。其の組織の宏大なる、又それが新時代の思想なるプロータゴラスの主觀說に負へりと思はるゝ所あるなど、唯だこれをソークラテース以前の物界硏究時代の產物とのみ視がたきものあり。又デーモクリトスの生時をいふも彼れは或は少しくソークラテースよりも年少なりきと思はる。然れども彼れを取りて物界硏究時代の思索より斷ち離すべきにもあらず、その學說は大體の點に於いてロイキッポスの唱へたる根本思想を繼承し開發したるものなれば也。彼れはアッティカに於て盛に起これりし新思想の大潮流と隔離せり。故に學派を以てすれば彼れは寧ろ大體上物界硏究期に屬すべき者なり。希臘の學界が物界硏究期よりして一大步を轉ずるは次ぎに叙せむとする人事硏究の時代にあり。

〔附言〕 デーモクリトスの希臘哲學に占むる位置に就いては史家其の見を同