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Page:Onishihakushizenshu03.djvu/154

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を見ても知らるべし。鄕人の尠からざる尊敬を受け高齡を以て卒はれり。著述浩澣、其の書の題目の今日に傳はれるものによりて考ふるも彼れが數理、天文、地理、物理、生理等の諸學に涉り、かねて道德を論じ又音樂、繪畫、詩歌等より兵法、醫術に至るまで其の講究の及ばざるものなかりしを知るに足る。其の識の該博なる、其の論の銳利にして整然紊れざる、前代學者の遠く及ばざる所なり。其の文の燦然光彩を放てる、其の聲調の高雅なる、シセロは之れをプラトーンに比せり。實にプラトーン、アリストテレースと相列んで遜色なき大哲學的著述家たりしが如し。物界硏究時代の物理的哲學は彼れに至りて最も光輝ある頂上に達しぬといふべし。惜しむらくは其の著書の傅はらざることを。

《アトム論の根本思想。》〔三〕所謂アトム論は如何程ロイキッポスの說ける所にして如何程デーモクリトスの開發せる所なるか判然たらず。然れども上述せる如く其の論の根本思想と見るべき者は槪ね旣にロイキッポスによりて唱道せられたりしならむ。アトム論の根本思想はなるものとなるものとは共に均しく存在するものにして而して實なるものは夥多あれど其の各個は更に分割すべからざる者なりといふに