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の地球に伴うて廻轉する故に吾人は之れを見るを得ず。地球と太陽とが同一方角に位する時は晝となり反對の方角に位する時は夜となる。蝕は月が太陽と地球との間に挾まる時に生じ月蝕は地球が月と太陽との間に挾まる時に起こる。ピタゴラス學徒は大地の形を球と思へりしや明らかなり。又日月を玻璃質の球と思へり、然れども或所傳によれば星體を地球と同樣のものと見、月界には植物生長し有情のもの住すと思へりきとも見ゆ。

地球は一日に、月は一月に、太陽は一年に中央火の周圍を廻轉す。他の星體は尙ほ許多の歲月を要す。凡そ迅速に空中を飛行する物體は音を發すれば天體も亦音を發して運行す。其の運行の速力中央火を離るゝに從うて異なるが故に其の發する音もまた異なり。天體の音相調諧して一の音曲をなす。之れをピタゴラス學徒の所謂「天球の音曲」となす。吾人が其の音曲を閬かざるは生まれてより絕えず之れを聞き慣れたれば也、猶ほ鍛冶屋に居る者の鎚の音を聞かざるが如し。宇宙に一大調和の存すといふこと、是れピタゴラス學徒の好んで唱へし所なりき。

右陳べたるピタゴラス學徒の天文說は他學派の說に比すれば著るき進步をなせ