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は恰も生物が周圍の物質を我が體內に取り入れて之れを同化せしめ又體內の廢物を外界へ排泄する如くに世界の中心より出づる力がト、アパイロンを引き入れて之れに形を與へ而して世界の內にて旣に形の壞敗せるものは再びト、アパイロンに還りて漠々に歸すと云ふにあるならむ(之れをアナクシメネースと比ぶべし)。此くの如く太一といふ形造するものとト、アパイロンと云ふ形造さるゝものとを說きたるは此の派の學說に於いて最も注意すべき點なり。

《天文說。》〔七〕太一は世界の中心にしてこゝに此の學派の所謂「中央火」あり。宇宙は球形を成し中央火其の重點となりて之れを保つ。中央火の周圍に西より東へ廻る十個の天體あり。恒星の天、五個の遊星、日、月、地球及び「むかひの地球」(ἀντ ίχδων)これ也。天體は凡べて透明なるうつろの球に附著し其の球の廻轉するに從うて廻轉す。恒星の附著せる球(即ち恒星の天)最も中央火を距る、次ぎに五個の遊星各〻遠近あり、次ぎに日、月、地球、むかひの地球と順次に中央火に近し。地球は中央火に對して常に同一側面(西の半面)を向けて廻轉するが故に曾て中央火に向かふことなき側面に棲息する人類は其の火を見るを得ず、又地球と中央火との中間にある「向の地球」も吾人