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ピタゴラス派の學說は一時に一人の作りしにはあらで長時を經多くの人によりて漸次に構成せられし者なるが如し。故に其の一部分と他部分との關係甚だ疎なる所あり。又其の學說の大部分の何時構成せられしかは明らかならず。フィロラオスの著作なりとて傳はれるものは此の派の學說の記錄せられたる最古のものにして其のうち明らかに僞作と見ゆる部分を除けば信憑するに足ると考ふる一史家あれど、又此の書を以て全く信ずるに足らずとする學者もあり。
《萬物皆數より成る。》〔三〕ピタゴラス派學說の根本思想は物皆數より成るといふにあり。されど此の派の謂ふ數と物との關係を委しくは如何に考ふべきかに就いては史家大に其の意見を異にす。或は思へらく、物體が數を以て成れりといふ意にはあらで唯だ數の關係に從ひ又數の模範に倣うて形づくらるといふ意なり、數を以て物體の原質と見做せるにはあらずと。然れどもこは寧ろ後世の說明にして原初のピタゴラス學徒は數を以て諸物の原素と思ひたりしが如し、而して斯く思ふは諸物を數の關係に從うて形づくらると見ると毫も相容れざることにあらず、彼等は恐らくは萬物は數を以て成る隨うて數にかたどりて存在し數が諸物の原型なりと考へ