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倂し精神的作用に出づるものとせずば宇宙の秩序を解すべからずと考へたる所は彼れの說に於いて覆ふべからざる點なり。但しヘーゲル派の哲學史家は槪ね彼れを目してソークラテース以前の物理說の立脚地を超脫せるもののやういへれど彼れが尙ほ物理派學者の一人たることは其の學說全體の趣より見て明らかなるべし。彼れが虛空の存在を拒否し又凡べての種子の曾て全く相混淆せる狀態にありしこと(故に又各種子の限りなく小分せらるべきこと)を說く所はエムペドクレースの學說に於けると同じ非難を受けざるべからず。


第八章 ピタゴラス學派

《ピタゴラス學派の多元論と他學派との關係。》〔一〕エムペドクレースは地、水、火、風の四元素を以て、アナクサゴーラスは無數の種子を以て諸物の生起及び變化を說明せまくせしが、こゝに又物元を多元的に見て空間に於ける單一なるもの即ち個々の點相集まりて物體をなすと說きたるものあり。ピタゴラス學徒これ也。エムペドクレース、アナクサゴーラスの二人いづれも多なる物元を說きたれどその謂ふ物元は單一なるものにあらず窮まり