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Page:Onishihakushizenshu03.djvu/131

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狀態にありしが其の後ち漸々異種のもの相分かれ同種の物のみ相集まるに從ひ千差萬樣の物象を生ずるに至れる也。故にアナクサゴーラスに從へば千種萬類の差別は異種のものの相合するによりて現はるゝにあらず寧ろその相分かるゝによりて現はるゝ也、即ち本來種子に具はれる(而も世界の太初には相混じて埋沒せりし)無數の性質上の差別が異種なる種子の相離れ同種なる種子のみ相集まるに從ひます現じ來たる也。然れども此の異種なる種子の分離は今日に至るまで未だ全く完了せしにあらず、隨うて今尙ほ一物といへども全く一種類の種子のみより成れるはなく多少他の凡べての種子を包含す。されば現存せる個々物は多少、太初一切の種子の相混合雜糅せし狀態の痕跡をとどむといふべき也。アナクサゴーラスの語に曰はく「凡べてが凡べての部分を其の中に含む」と、又曰はく「世界は一なり、其の中のもの相分かれたるはなし、斧を以て斷ち割られたるはなし、熱も寒と離れず、寒も熱と離れず」と。夫れ物の變化は所詮種子の或は集合し或は離散する現象に外ならず。若し一物にして他物を含まずば如何にして他物に化するを得むや。一物の變化して他物となるが如く見ゆるは其の素より含有せり