Page:Onishihakushizenshu03.djvu/120

提供:Wikisource
このページは校正済みです

ばエムペドクレースは現今の世界を以て極端の離散の狀態よりスファイロスへ進みゆく中途にありとすれど、之れに反して、彼れは現世界を以てスファイロスの狀態より離散の狀態へ進みゆきつゝありと見たりと解する史家もあり。

《天文說。》〔五〕憎によりて離散せられたる物界の中央に愛が入り來たりて先づ旋渦を起こし次第に周圍の諸物を吸引す(又或史家の見を取ればスファイロスの中央に憎が入り來たりて離散を生じ始むる也)。之れが爲めに空氣まづ凝結して全物界の外皮を作り、つづいて火質出でて件の空氣を壓し空氣は下に壓せられて暗なる半球を形づくり火質は上りて明なる半球を形づくる、天廻りて明らかなる半球上に懸かれば晝となり暗なる半球之れに代はれば夜となる。大地は初め粘泥の狀態にありしが廻轉するに從ひて水を排出し水更に空氣を排出せり。この最後に出でたる空氣これ天の最下層にとどまりて大地を覆ふもの也。暗なる天の半面に火塊の散布せる、これ星體なり。日輪は玻璃質のものにて明らかなる半球の光輝を集めて之れを四方に反射す。月の光あるは日輪の光を反射するによる、其の形盆に似て空氣の凝結せる水晶質のもの也。日蝕は日と地との間に月の挾まるに