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Page:Onishihakushizenshu03.djvu/113

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第六章 エムペドクレース(Ἐμπεδοκλῆς

《エムペドクレースの生涯、性行、著述。》〔一〕エムペドクレースはドリア種族の殖民地なるアクラガスの人〈アクラガスはシヽリア島の一市府〉紀元前四百七十二年以後其の生まれし市府にて有爲の一人物なりしことは疑はれざる事實なり、又其の死せしは四百四十年以後なることも確かなり、されば其の生涯は略〻四百九十一年ごろより四百三十年頃に至ると見て大過なかるべし。父メトーン、時の擅政家を排して民主政治を起こすに與りて力ありき、エムペドクレースも亦大に民主黨の爲めに盡くすところあり常に平民の良友を以て自任しき。加之彼れは宗敎家として又醫家として大に時人に尊信せられ廣く民間を巡歷して敎法を說き民の疾苦を訪ひき。且つ種々の奇跡を行ひしよし古き書どもに記載しあれど實際如何ほどの事なりしか確かには知り難し。其の說きし敎法は輪廻轉生、未來賞罸の說又ピタゴラス盟社に於ける信仰禮拜の如き者なりしならむ。エムペドクレースは宗敎家としてやゝピタゴラスに似たる所あり。資性沈重、志氣雄大、辯舌流るゝが如くなりきとぞ。其の死に關しては古來種々の妄說