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たつた一つの雲よ


あしたから春になるといふ

貧しい私の生活も

曆のやうにアラタまれ


〈B〉


この泉の水を汲んでくれ

これはさゝやかな泉だ

恰度茶わんに一ぱいほどの水だ

だが見てくれ

この水は淸冽で

ま新しいのだ

無限の靑空󠄁が

そのはりつめた方寸のおもてに

くつきりうつつてゐるではないか

しんと動かないが

耳を近󠄁づけてきいてくれ

その底にしんしんと

力のみなぎるつぶやきが

聞えるではないか

この泉は四方の大きい岩を

じみじみと永い日夜をかけて

絕えずしみとほつて來た水が

一切の汚辱を去り、

みぢんのにごりもとどめず

今朝󠄁ここに充ちたものだ

見てくれ、底の砂粒の一つ一つが

寶石のやうにきらきらしてゐる

塵一つ、枯葉のかけ一つ

沈んではゐない

もつと頰をその表面に近󠄁づけて

見てくれ

氷のやうな息吹が

泉からたちのぼる冷氣が

君の感覺をさしはしないか

さあ

この泉を汲んでくれ

もろ手を出してすくつてくれ