せむすべなし、かの善人も禍り、惡人も福ゆるたぐひ尋常の理にさかへる事の多かるも、皆此神の所爲なるを、外國には、神代の正しき傳說なくして、此所由をえしらざるが故に、たゞ天命の說を立て、何事もみな、當然理を以て定めむとするこそ、いとをこなれ、
然れども、天照大御神高天原に大坐々て、大御光はいさゝかも曇りまさず、此世を御照しまし〳〵、天津御璽はた、はふれまさず傳はり坐て、事依し賜ひしまに〳〵、天の下は御孫命の所知食て、
異國は、本より主の定まれるがなければ、たゞ人もたちまち王になり、王もたちまちたゞ人にもなり、亡びうせもする、古よりの風俗なり、さて國を取むと謀りて、えとらざる者をば賊といひて賤しめにくみ、取得たる者をば、聖人といひて尊み仰ぐめり、さればいはゆる聖人もたゞ賊の爲とげたる者にぞ有ける、掛まくも可畏きや吾天皇尊はしも、然るいやしき國々の王どもと、等なみには坐まさず、此御國を生成たまへりし神祖命の、御みづから授賜へる皇統にまし〳〵て、天地の始より、大御食國と定まりたる天下にして、大御神の大命にも、天皇惡