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事ニ非ラスヤ况ヤ此人種ハ年々减少シ遠カラスシテ將ニ其跡ヲ絕ントスルノ傾アルニ於テオヤ鳥居君ノ新著述ノ如キ實ニ從來ノ缺ヲ補ヒ後日ノ硏究ニ資スルニ足ル者ト謂ベシ一言喜ヲ記シテ本書ノ發行ヲ祝ス
明治三十六年四月二十日 醫學博士 大澤岳太郞
自序
千島アイヌ! 千島アイヌ!
汝は古來波風荒き千島列島に、水草を追ひて、移住往來し、北はよくカムチヤダールを壓し、南はよくヤングルを恐れしめたり、嗚呼何ぞ其剽悍勇猛なる、されど適者生存、優勝劣敗の原則は、汝の手より幸福を奪ひ去り、今や昔日の勇氣已に消滅し、其人口の如き、又减じ减じて、憐れにも僅かに六十有餘名を殘すのみ、この形勢を以て進み行かば、汝の運命將に知るべきのみ
この運命を知る者、何ぞ一滴の涙なき能はざらんや、其汝に向ての同情は遂に余をして、本書を世に公にせしむるに至れり
余はこの書に因て、不肖なりと云へども、汝の體質、言語、神話、口碑、昔話、風俗、習慣、古物、遺跡等を記載し、以て汝の何物たる、汝の祖先の偉大なりしことを永く世に傳へんとす、聊か思ふことを記して序とす、
著者 鳥居龍藏